腹痛・急性腹症

消化器
レッサーパンダ

急性腹症とは

発症1週間以内の急性発症で、手術などの迅速な対応が必要な腹部(胸部も含む)疾患
救急外来の 5-10%(そのうち、手術率は 20%、致死率は 0.5%未満)
急性腹症疑い ⇒ 外科コンサルト

腹痛の原因:腹腔内臓器とは限らない、心臓、皮膚、整形外科領域臓器の可能性

非外傷性の原因

突発発症の破裂、閉塞(梗塞、結石)、捻転、解離に注意
炎症:急性虫垂炎、胃炎、胃腸炎、憩室炎、膵炎、腹膜炎、胆嚢・胆管炎
消化管:腸閉塞、小腸閉塞、消化性潰瘍穿孔
結石:胆石症、尿管結石
急性産婦人科疾患:腫瘍、炎症、卵巣茎捻転、卵巣出血、妊娠関連
非特異的腹痛 30-40%(若い女性に多く、高齢者に少ない)
若年者には虫垂炎、高齢者には胆道系疾患が多い [Miettinen, 1996]

診療

まずはバイタル、診察、腹膜刺激徴候、Xp、ECG、エコー、腹部CT(単純 + 造影)

① 腹膜刺激徴候、ショック、トキシック様
 Yes ⇒ 蘇生開始、外科コンサルト、エコー、採血(手術の可能性があれば、凝固、血液型、クロスマッチ、感染症も含む)、ECG
 No ⇒ 急性冠症候群、腹部大動脈瘤を考慮
 No and 妊娠可能な女性 ⇒ 婦人科系疾患、エコー、hCG
② 腹部CT
臓器周囲の脂肪織濃度上昇は炎症を示唆、造影剤血管外漏出、造影不良域、腹水

超緊急疾患:急性心筋梗塞、動脈瘤破裂、肺動脈塞栓症、大動脈解離
緊急疾患:肝癌破裂、異所性妊娠、腸管虚血/壊死、重症虚血、重症急性胆管炎、敗血症性ショックを伴う汎発性腹膜炎、内臓動脈瘤破裂、ヘルニア嵌頓、消化管穿孔、腸閉塞
⇒ 緊急手術/IVR、専門施設に転院、集中治療

カーネット徴候 [Carnett, 1926]:仰臥位で両腕を胸にクロスさせて置く。一番強い圧痛点に手を置いたまま頭部がベッドから挙上させて、腹部の筋肉を緊張させる。
圧痛減弱 ⇒ 陰性(腹腔内臓器の疼痛);圧痛増強(or 不変)⇒ 陽性(腹壁性の疼痛)

病歴聴取項目

痛みの性状、結石の既往、手術の既往
SAMPLE:S, signs and symptoms、A, アレルギー、薬物、M,服用中の薬、P, 既往歴、L, 最後の食事、E, events leading up to the injury or illness
生来健康な患者が6時間以上続く激しい腹痛 ⇒ 緊急手術の可能性
月経歴、妊娠の有無
嘔吐、嘔吐物の性状

部位による鑑別診断

右上腹部痛

食道・胃・十二指腸疾患、肝胆道系疾患が多い
急性塞栓性胆管炎、胆嚢炎、胆石症
急性肝炎、肝膿瘍、肝周囲炎
胸膜炎、肺炎
腎結石、腎盂腎炎、心疾患
食道・胃・十二指腸・胆道系疾患が多い
心筋梗塞、心筋炎、心内膜炎、急性膵炎、胃十二指腸潰瘍・穿孔
Fitz-Hugh-Curtis症候群(骨盤内感染症や炎症性疾患が上行性に拡大し肝周囲炎。若年女性の性器クラミジア感染が多い)

心窩部痛

食道・胃・十二指腸・胆道系疾患が多い
心筋梗塞、心筋炎、心内膜炎、解離性大動脈瘤
急性膵炎、胃十二指腸潰瘍・穿孔
Fitz-Hugh-Curtis症候群

左上腹部痛

脾梗塞、脾破裂、憩室炎、食道炎
胸膜炎、肺炎

臍周囲の腹痛

腹部大動脈瘤破裂、腸間膜動脈閉塞症(superior mesenteric artery)
虫垂炎初期、腸閉塞(小腸)
下腹部疾患の内臓痛

右下腹部痛

腸疾患、尿路疾患、婦人科疾患が多い
虫垂炎、憩室炎、急性腸炎、鼡径ヘルニア嵌頓
骨盤腹膜炎、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患
異所性妊娠、子宮内膜症、卵巣出血

臍下部痛

腸疾患、尿路系疾患、産婦人科系疾患が多い
子宮外妊娠、卵管炎、卵巣嚢腫茎捻転、骨盤腹膜炎
骨盤内炎症性疾患、子宮筋腫、精巣捻転、精巣上体炎

左下腹部痛

腸疾患、尿路疾患、婦人科疾患が多い
憩室炎、便秘(便による閉塞)、大腸悪性腫瘍、大腸炎
前立腺炎、精巣上体炎、尿路結石、尿路感染症
異所性妊娠、子宮内膜症、卵巣出血

腹部と背部痛

後腹膜病変に注意
大動脈解離、膵炎、尿路結石、腎盂腎炎、圧迫骨折、腸腰筋膿瘍

文献など

日本腹部救急医学会 急性腹症診療ガイドライン 2015
Carnett JB. Intercostal neuralgia as a cause of abdominal pain and tenderness. Surg Gynecol Obstet 1926,42,625–32
Miettinen P, et al. Acute abdominal pain in adults. Ann Chir Gynaecol 1996,85,5-9

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